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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)12479号 判決 1971年10月23日

原告

西嶋靖彦

ほか一名

被告

鈴木昭雄

主文

一  被告鈴木昭雄は原告西嶋靖彦に対し金一一八七万八〇〇〇円及びこれに対する昭和四四年一二月二日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告西嶋靖彦の被告鈴木昭雄に対するその余の請求及び被告日本通運株式会社に対する請求並びに原告藤村美屋子の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告西嶋靖彦と被告鈴木昭雄との間に生じた分はこれを一〇分し、その四を同原告の、その余を同被告の負担とし、原告らと被告日本通運株式会社との間に生じた分は全部同原告らの負担とする。

四  この判決は第一項にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  原告ら

1  被告らは各自原告西嶋靖彦に対し金一七五二万四〇〇〇円、原告藤村美屋子に対し金五五万円及びこれらに対する昭和四四年一二月二日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

二  被告ら

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第二原告らの請求原因

一  (事故の発生)訴外西嶋靖彦は、次の交通事故によつて受傷し、その結果昭和四二年四月二八日午後一〇時五分死亡した。

1  発生日時 同日午後九時四〇分項

2  場所 新潟県直江津市大字春日新田五七〇九番地先の路(国道八号線)上

3  加害車両

(一) 事業用貨物自動車(登録番号 新一い七六六四号、以下「貨物車」という。)

運転者 訴外 三膳惣作

(二) 原動機付自転車(登録番号 直江津二四八四号、以下「原付車」という。)

運転者 被告 鈴木昭雄

二  (事故の態様)本件事故現場の道路は、東西に走る幅員五・七メートルの歩車道の区別のないアスフアルト舗装の直線道路であつて交通は頻繁であり、その両側には人家等が密集し照明設備もすくなく、しかも本件事故当夜は小雨のため路面が濡れていたのであるが、被害者が右道路の北側を訴外中谷泰友と並んで(被害者が右側)歩行中、その後方から同一方向に進行してきた原付車が右両名の間に突こみ、被害者を右道路の北側端から中央に向けて二・六メートル離れた地点まではねとばして転倒させ(第一事故)、折から右原付車の反対方向から進行してきた貨物車が、右のように転倒した被害者をその後車輪で轢圧した(第二車故)ものである。

三  (責任原因)

1  被告会社は貨物車を、被告鈴木は原付車をいずれも本件事故時において自己のために運行の用に供していたものである。

2  よつて被告らは各自自賠法三条により本件事故によつて生じた損害を賠償する義務がある。

四  (損害)

1  訴外西嶋房子の財産的損害

被害者の母である訴外房子は、被害者の右受傷及びこれに基づく死亡により次の出捐を余儀なくされた。

(一) 被害者の診療費 金四一四七円

(二) 仮葬費 金六万一四三五円

(三) 本葬費 金八万〇三九〇円

(四) 祭事費 金六万二〇五〇円

(五) 交通費 金六万七六九一円

以上合計(金一〇〇〇円未満切り捨て) 金二七万五〇〇〇円

2  被害者の逸失利益の損害

被害者は本件事故当時二八才であつて、ジヤパン・ライン株式会社に船員として雇用されていたものであるが、本件事故死することがなければ、すくなくとも六三才までは稼働して収入を挙げられ、このうち五八才の定年までは同会社に勤務し得たにかかわらず、本件事故によつてその間の得べかりし利益を喪失したものである。そして被害者のこの得べかりし収入から所要の生活費を控除しホフマン式計算法により中間利息を控除して本件事故時における現価に換算すれば別表(一)記載のとおり合計金一四六六万四〇〇〇円となる。

3  訴外西嶋房子の相続

訴外房子は被害者の唯一の相続人として被害者の右逸失利益の損害賠償請求権を相続した。

4  訴外西嶋房子の慰藉料

訴外房子の実子は原告靖彦と被害者の二名であつて被害者の突然の本件事故死により多大な精神的苦痛を蒙つたのであり、これに対する慰藉料は金四〇〇万円が相当である。

5  損害の填補

以上のとおりであつて訴外房子は被害者の本件事故死によつて被告らに対し合計金一八九三万九〇〇〇円の損害賠償請求権を取得したのであるが、このうち前記被害者の診療費を含む金三〇〇万四一四七円については自賠責保険から填補を受けたのでその残額は一五九三万四〇〇〇円(金一〇〇〇円未満切り捨て)となる。

6  原告美屋子の慰藉料

原告美屋子は、訴外房子の姪(訴外房子の姉の子)であり被害者の異母姉に当たるのであるが、同原告と被害者との間には一九才の年齢差があり、そのため被害者の出生後同原告が前夫と結婚した昭和一六年六月まではその養育を手伝い、さらに夫が外地にあつた昭和一八年一月から昭和二二年までは被害者と同居し、また訴外房子が他家にいた昭和二五年から昭和三〇年までの間もできるだけ被害者の世話をしたのであり、ことに被害者が昭和二九年四月山口県立仙崎水産高等学校に入学し、昭和三二年三月同校を卒業するまでの間は同原告の所から通学させてその学資を負担したのである。以上のような事情から同原告は被害者を実子同様に思い被害者も同原告を親のように慕つていたのであつて、被害者の本件事故死による同原告の精神的苦痛は多大であり、これに対する慰藉料は金五〇万円が相当である。

7  弁護士費用

訴外房子及び原告美屋子は、被告らが以上の損害賠償債務を任意に履行しないのでその取立を弁護士である本訴原告訴訟代理人に委任し、その手数料及び謝金として右請求権額の一割を右弁護士に支払うことを約束した。よつて、訴外房子は金一五九万円、原告美屋子は金五万円をそれぞれ弁護士費用として請求する。

五  (訴外房子の死亡と原告靖彦の相続)

訴外房子は本訴提地後の昭和四六年一月二六日死亡したため、その唯一の相続人である原告靖彦が訴外房子の叙上の金一七五二万四〇〇〇円の損害賠償請求権を相続した。

六  (結論)

よつて、被告らに対し原告靖彦は金一七五二万四〇〇〇円、原告美屋子は金五五万円及びこれらに対する本訴状送達の翌日である昭和四四年一二月二日から支払ずみにいたるまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだものである。

第三被告鈴木の答弁

一  請求原因に対する認否

1  第一、二項及び第三項1の事実は認める。

2  第四項中訴外房子がその主張の金額を自賠責保険から受領した事実は認める。その余の事実は知らない。

二  抗弁(自賠法三条但書所定の免責事由の存在)

被告鈴木は本件道路を東進中、対向する貨物車を発見し、原付車の前照灯を減光し時速約二五キロメートルに減速して進行したが、右道路北側のバー「夜香」の前を通過したとたん、その前方約二メートルの地点に被害者が訴外中谷と肩を組んでとび出したのを発見したため急制動をほどこしたが及ばず第一事故の発生を見るにいたつたのである。その際被害者は右バーで飲酒のうえ本件事故現場から約五〇〇メートル離れた直江津港に帰る途中だつたのであるが、本件道路の左側(北側)を歩行し、しかも酒に酔い交通の安全を確認すべき注意義務を怠つて右のごとく原付車の直前にとび出したため本件事故に遭遇するにいたつたものである。

右のとおりであつて、本件事故はもつぱら被害者の過失によつて発生せしめられたものであつて、被告鈴木には過失がなく、また原付車には構造上の欠陥も機能上の障害もなかつたものである。

第四報告会社の答弁

一  請求原因に対する認否

1  第一、二項及び第三項1の事実は認める。

2  第四項中、訴外房子及び原告美屋子が本訴原告訴訟代理人に訴訟委任した事実は認め、その余の事実を争う。

二  抗弁(自賠法三条但書所定の免責事由の存在)

1  貨物車運転の訴外三膳は前照灯を減光して進行中、本件事故現場附近において原付車が時速約四〇キロメートルの速度で対向接近してくるのを発見し、さらに、原付車のライトに照らし出された被害者を発見したのであるが、その際貨物車の右側(北側)には側溝を加えて幅約三・二メートルの余地があり、したがつて貨物車がそのまま進行しても原付車及び被害者と支障なくすれ違いうる状態だつたのである。まして第一事故につぎ第二事故が発生するなど訴外三膳としては全く予見し得なかつたのである。なお、その際貨物車の左側(南側)には側溝を加えて幅約一・四五メートルの余地があつたのであるが、右側溝にコンクリート製蓋が設置されていたとはいえ、そこは貨物車の走行できる状態にはなかつたのであり、右側溝部分をのぞけば貨物車の左側には七〇センチメートルないし九〇センチメートルの余地があつたにすぎず、さらに貨物車の後車輪がその車体の若干内側に設置されていることを考えれば貨物車の左側には人がようやく通行しうる程度の余地しかなかつたのである。しかも本件道路には中心線の表示がなかつたのであるから、貨物車が道路の中央寄りを走行し、その車体右側が道路右側部分にはみ出したとしても、これをとらえて訴外三膳に過失があつたとはなし得ないのである。

2  被告鈴木は制限速度をこえる前記速度で原付車を運転し、被害者を発見しながら減速、警音器吹鳴等の事故防止措置もとらずに漫然原付車を進行せしめた過失により本件事故を発生せしめたものであり、また被害者は、幅員がせまく交通も頻繁な本件道路の左側(北側)を、しかも酒に酔つて歩行していたため本件事故に遭遇したものであり同人にも過失があつたのである。

3  右のとおりであつて本件事故は被告鈴木及び被害者の過失によつて発生せしめられたものであつて、訴外三膳及び被告会社には過失がなく、また貨物車には構造上の欠陥も機能上の障害もなかつたのである。

第五抗弁に対する原告らの認否

一  被告鈴木の主張に対して

同被告が本件道路を東進中貨物車を発見し、原付車の前照灯を減光し時速約二五キロメートルに減速して進行した際、その前方約二メートルの地点に被害者を発見したこと、被害者がバー「夜香」で飲酒したこと、被害者は本件事故時に直江津港に帰る途中であつたこと、以上の事実は認める。その余の事実は争う。

二  被告会社の主張に対して

1  訴外三膳が本件事故現場附近において原付車を発見し、さらに原付車のライトに照らし出された被害者を発見したこと、その際貨物車の左側には側溝を加えて幅約一・四五メートルの余地があつたこと及び本件事故の発生につき被告鈴木に過失があつたこと、以上の事実を認めその余の事実を争う。

2  訴外三膳としては本件事故現場の道路の状況が請求原因第二項のとおりであることは普段右道路を通行して知悉していたのであり、本件第一、第二事故のごとき交通事故のあり得ることは当然予見し得たものであり、ことに本件の場合にあつては、訴外三膳はその前方に原付車及び被害者を発見していたのであるから右事故発生の予見は一層可能だつたというべきである。したがつて訴外三膳としてはさらに前方注視を厳にし、第一事故の発生に対処して直ちに急停車できるよう最除行のうえ貨物車を進行させ事故発生を未然に防止すべき注意義務があるのにこれを怠つた同人の過失により第二事故が発生せしめられたというべきである。

また、本件第二事故発生時貨物車の左側には幅約一・四五メートルの余地があつたのであり、これと右道路の幅員、貨物車の車幅によつて計算すれば、貨物車は本件道路の右側部分に二五センチないし三二センチメートルはみ出して通行していたのであつて、右通行方法は、明らかに道交法一七条に違反するものであり、貨物車の左側には側溝をのぞいてもなお九五センチメートルの通行可能余地があつたのであつて、訴外三膳において右道交法の規定にしたがう通行方法をとつていれば第二事故は発生しなかつたのであつて、この点から見ても訴外三膳に過失がなかつたとすることはできないのである。

第六証拠関係 〔略〕

理由

第一  事故発生

請求原因第一、二項の事実は当事者間に争いがなく、〔証拠略〕を総合すれば次の事実を認定することができる。本件事故現場附近の地理的状況、被害者及び訴外中谷泰友並びに貨物車の位置関係、相互間の距離の概略は別紙図面のとおりであり、右現場の西方約五〇メートルの荒川橋から東方約九〇メートルの不正十字路までの約一四〇メートルの間は直線道路であるが照明設備の関係もあり、また本件事故当夜小雨のためその見とおし状況は前方約五〇メートルが確認しうる程度であつた。

被害者は本件事故直前に訴外中谷とともに右事故現場の北側にあるバー「夜香」に立ち寄り、ウイスキー・オン・ザ・ロツク二、三杯を呑んだ(被害者が右「夜香」において飲酒したことは原告らと被告鈴木間においては争いがない。)後同店を出て右道路の北側(北側端から中央へ約〇・九メートルの地点)を不正十字路の方向に歩き出した。被告鈴木は当初原付車を時速約三〇キロメートルの速度で運転東進したが、荒川橋を渡つた直後不正十字路附近の右道路の中央寄りを対進してくる貨物車を発見し、前照灯を減光すると同時に速度を時速約二五キロメートルに減速し(被告鈴木が貨物車を発見したため、右のように原付車につき減光、減速したことは原告らと被告鈴木間に争いがない。)、さらにそれまで走行していた前記道路の北側端から中央へ約二メートルの道路を北側へ寄せて進行したが、貨物車に気をとられていたため前記の被害者らに気づかず、夜香の前を通過した直後、はじめてその二、三メートル(被告鈴木の被害者発見地点がその二メートル前方であることは、原告らと被告鈴木間に争いがない。)前方に被害者を発見し、狼狽のあまり原付車のブレーキを踏むいとまもなく前記第一事故を発生させ、その際貨物車は原付車の数メートル前方に迫つていたため第二事故にいたつたものであること。

訴外三膳は前記不正十字路附近から約二〇メートル西進した地点において前記のとおり荒川橋を渡つている原付車を発見し、さらに一〇メートルほど進んだ地点において被害者らが前記のとおり歩行しているのを発見した(訴外三膳が原付車を発見し、かつ原付車のライトに照らし出された被害者らを発見したことは原告らと被告会社間に争いがない。)のであるが、その際貨物車の右側から本件事故現場の道路の北側端まで幅約二・六メートルの間隙があり、右道路に沿つて設置された有蓋側溝を加えるとその間隙は約三メートル余に達するため、被害者及び原付車と支障なくすれ違いうるものと考え、時速約二五キロメートルに維持し前照灯を減光して進行をつづけたところ、被害者らの至近距離に達したとき原付車が被害者らの間に突こもうとするのを視認し急制動をほどこしたが及ばず第二事故を発生せしめるにいたつた。

被告鈴木は被害者らが肩を組み原付車の直前にとび出した旨主張するけれどもこれを確認しうる証拠はなく、他に以上の認定を左右するに足りる証拠がない。

第二  原告靖彦の被告鈴木に対する請求についての判断

一  責任原因

請求原因第三項1の事実は当事者間に争いがなく、前記認定の事実によれば本件事故は同被告が貨物車の動向に注意を集中した結果進路前方に対する注意を怠り、至近距離にいたるまで被害者の存在に気づかなかつた同被告の過失により発生せしめられたものであることは明らかであるから、同被告主張の抗弁は爾余の判断を用いるまでもなく失当たるをまぬかれない。よつて被告鈴木は自賠法三条により本件事故によつて生じた損害を賠償する義務がある。

二  損害

1  訴外西嶋房子の財産的損害 金二五万四一四七円

〔証拠略〕を総合すれば、訴外房子は被害者の母として、被害者の本件受傷による診療費金四一四七円及び被害者の本件事故死により直江津市において同人のために仮葬儀を執行しその費用として金六万一四三五円を支出したほか、原告靖彦らとともに右事故の事後処理のためその居住地である山口県下から直江津市まで往復した交通費及び右山口県下において被害者の本葬儀・供養を営み、その費用として右仮葬儀を含めすくなくとも金二五万円を下ることのない出捐を余儀なくされたものと認められる。よつて、その合計は金二五万四一四七円となる。

2  被害者の逸失利益の損害 金一一一二万八〇〇〇円

(一) 〔証拠略〕を総合すれば、被害者は本件事故当時二八才(昭和一三年一二月生れ)であつて、昭和三二年三月山口県の水産高等学校卒業、直ちに、ジヤパン・ライン株式会社に船員(甲板手)として入社し、本件事故時においては同会社所属の大和丸の舵手として稼働していたものであるが、健康体の持主であつて本件事故に遭遇しなければ、すくなくとも六三才まで稼働し原告が主張するとおりの収入を挙げ得たものと認められ、また右収入を挙げるに要する生活費については原告の主張するところは相当と認められるから、これに基づいて被害者が本件事故死によつて喪失した得ぐかりし純利益額を算出し、かつ、民法所定年五分の割合による複利年金現価率(ただし、退職金については複利現価率)によつて中間利息を控除し、本件事故時における現価に換算すればその合計は別表(二)記載のとおり合計金一一一二万八〇〇〇円となる。

(二) 過失相殺

請求原因第二項の事実並びに前記第一において認定した事実によれば、被害者も右のごとき状態にある道路の北側端から約〇・九メートル道路中央に寄つた地点を酔余訴外中谷と並んで歩行中本件事故に遭遇したものであつて、この事実によれば本件事故の発生については被害者にも過失があつたといわざるを得ないのであるが、前記認定被告鈴木の過失と対比すれば、被告鈴木の過失が圧倒的に大であつて被害者の過失はとるに足りない程度のものというべきであるから損害賠償の算定においてこれを斟酌しない。

(三) 訴外西嶋房子の相続

訴外房子が被害者の母であることは前記のとおりであり、その唯一の相続人であることは〔証拠略〕によつて明らかであるから、訴外房子は相続により前記認定の被害者の逸失利益の損害賠償請求権を承継取得したものというべきである。

3  訴外房子の慰藉料 金三〇〇万円

以上の諸事実その他本件にあらわれた諸般の事情を斟酌すれば、訴外房子が被害者の本件事故死によつて蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料は金三〇〇万円と認めるのが相当である。

4  損害の填補

訴外房子が被害者の本件事故死により自賠責保険から原告主張のとおり金三〇〇万四一四七円を受領したことは当事者間に争いがなく、これを叙上の損害賠償債権の一部の弁済に充当したことはその自陳するところであるから、その残額は金一一三七万八〇〇〇円となる。

5  弁護士費用

被告鈴木が叙上の損害賠償債務を任意に履行しないため、訴外房子がその取立を本訴原告訴訟代理人に委任し、原告主張のとおりの報酬契約を締結したことは〔証拠略〕によつてこれを認めるに充分であるが、右認容損害額並びに本訴の重点がむしろ被告会社の責任の追求にあつたことその他本件訴訟の推移にかんがみれば、被告鈴木において賠償の責に帰すべき弁護士費用の額は金五〇万円と認めるのが相当である。

三  訴外房子の死亡と原告靖彦の相続

訴外房子が本訴提記後の昭和四六年一月二六日死亡し、同人の子として唯一の相続人である原告靖彦が訴外房子の被告鈴木に対する叙上の損害賠償請求権を相続したことは〔証拠略〕と本件記録によつて明らかである。

四  結論

よつて、原告靖彦の被告鈴木に対する本訴請求は、被告鈴木に対し原告靖彦が以上の合計金一一八七万八〇〇〇円及びこれに対する本件訴状が同被告に送達された日以後であること記録上明らかな昭和四四年一二月二日から支払ずみにいたるまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当であるからこれを認容し、その余の請求を失当として棄却する。

第三  原告靖彦の被告会社に対する請求についての判断

一  責任原因

請求原因第三項1の事実は当事者間に争いがない。

二  免責事由の存否

前記第一において認定した事実によれば、訴外三膳がその進路の前方に原付車と被害者を発見したときにおいては、貨物車の右側から本件事故現場の道路の北側端までは約二・六メートルの間隙があり、これに右道路に沿つて設置された有蓋側溝の幅員を加えれば三メートル余の間隙があつたのであるから、前記被害者の歩行位置及び前記甲第二号証の一によつて認めうる原付車の車幅〇・八メートルを考慮しても、貨物車の右側には、貨物車と原付車及び被害者が支障なくすれ違いうる充分の余地があつたというべきであつて、訴外三膳が前記のとおり被害者及び原付車を発見しながら貨物車をそのまま進行せしめたことをもつて同人の過失と評価することはできない。のみならず本件のごとく対向車によつてはねとばされた歩行者が自車に接触するがごときことは、まことに稀有の事態に属するのであつて、訴外三膳において被害者が原付車にはねとばされて第二事故にいたるであろうことを予知すべき具体的状況下においてなお前記のとおり貨物車を進行せしめたと認めるに足りる特段の事情につき立証のない本件にあつては、むしろ訴外三膳には本件事故の発生を予見すべき義務がなかつたとするほかない。

原告靖彦は、本件事故時に貨物車が事故現場の道路の右側部分に二五センチないし三二センチメートルはみ出して通行した道交法違反の過失があつたと主張するのでこの点について見るに、〔証拠略〕を総合すればそのとおり貨物車がはみ出し通行していた事実が認められ、しかも貨物車の左側から右道路の南端に側溝部分を加えて約一・四五メートルの余地があつたことは当事者間に争いがない。しかしながら、〔証拠略〕を総合すれば、本件事故当時、右事故現場の道路には中心線の表示がなかつたのであり、中心線の表示がなされた現在の状況と対比して見ると中心線の表示を欠く場合その中心部分を正確に見定めることは白昼においても困難でありことに夜間においては照明設備の関係上殆ど不可能であること、前記貨物車の左側の余地のうち側溝部分の五〇センチメートルは貨物車にとつて通行不能な場所であること以上の事実が認められる。そして右のごとく貨物車が道路右側部分にはみ出した幅は前記のとおりなのであるが、それは貨物車のタイヤ一本の幅〔証拠略〕にすぎないのであつて、これを前記原付車及び被害者の通行位置とを対比すると貨物車の左側に側溝をのぞき約九〇センチメートルの通行余地があつたとしても、貨物車の前記はみ出し通行を目してそのまま訴外三膳の過失とすることはできない。そして他の本件金証拠によつても右の認定を覆すに足りるものはない。

以上のとおりであつて、本件事故の発生については訴外三膳に過失はなかつたと認められ、右事故発生につき被告鈴木に過失があつたことは当事者間に争いがなく、被害者に過失があつたことは前記第二、二(2)において刺示したとおりである。そして本件貨物車の運行につき被告会社に過失がなかつたこと、本件事故時に貨物車に構造上の欠陥ないし機能上の障害がなかつたことは〔証拠略〕によつてこれを認めるに充分であるから、被告会社が主張する自賠法三条但書の規定に基づく免責の拡弁は理由がある。

三  結論

よつて原告靖彦の被告会社に対する本訴請求は爾余の判断を用いるまでもなく失当たるをまぬかれないからこれを棄却する。

第四  原告美屋子の被告らに対する請求についての判断

〔証拠略〕を総合すれば原告美屋子と被害者間にその主張のとおりの身分関係があり、また同原告がほぼその主張する期間被害者と同居し、被害者が前記水産高等学校に在学した三年間はその学資を殆ど同原告において負担するなどその世話をしたことが認められる。しかしながら〔証拠略〕を総合すれば同原告は現在の夫との間に一子を設けて独立の生計を営むものであり、被害者は本件事故死しなければ将来訴外房子と同居する予定であつて、右のごとく原告美屋子が被害者と同居したのは同原告自身がその実家である訴外房子及び被害者方で生活しなければならない事情があつたからであり、被害者の学資の負担もその実家の経済状態が困窮したため実姉としてそうしたにすぎないことが認められる。この事実によれば原告美屋子の心情はともかくとして、客観的に被害者と原告美屋子が実親子と同視すべき関係にあつたとは認められないのであり、これと民法七一一条が生命侵害による親族の慰藉料につきその請求権者を被害者の父母、配偶者及び子に限定した趣旨を考え合わせれば、原告美屋子の本件慰藉料の請求は爾余の判断を用いるまでもなく理由がないといわなければならない。

よつて原告美屋子の本訴請求は失当としてこれを棄却する。

第五  以上の理由によつて民訴八九条、九二条、一九六条の各規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 原島克己)

生活費一覧表

<省略>

(別表一) ホフマン式による単利年金現価表

<省略>

別表(二) 被害者の逸失利益計算表

<省略>

現場概略図

<省略>

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